跳舞猫日録

Life goes on brah!

2022/06/25

古田徹也『はじめてのウィトゲンシュタイン』の中に面白い言葉が登場する。「ウィトゲンシュタインはあるとき、世界をよりよくしたいという友人に対してこう答えたという。『あなた自身を改善するのがいい。それが、世界をよりよくするためにあなたができる唯一のことだ』と」(p.299)。この言葉に対して、何をたわけたことを言っているんだ、という立場がありうるだろう。世界をよりよくするなら外の世界を変えるべきではないか。政治をよりマシなものに変え、私たちの社会を変革する。それが真っ当な改革ではないか、と。

だが、私はウィトゲンシュタインの言ったことを支持したいと思う。もちろんそうした社会変革に意味があることを踏まえて、どんなふうに社会が変わろうとも私たちが自分自身の認識を常にバージョンアップさせ、世界の認識の枠組みを変えなければ何も変わったことにならない、と。そして、そうして自分自身を変えるというのは極めて難しいことだ。「自分の態度や立場、考え方といったものを変えようと決心するのは、我々にとっては極めて難しいことだ」「我々はいまの自分を惜しみ、変わることを恐れる。それゆえ、勇気がここで必要となる」(p.302)

酒に溺れていた頃の私は、自分自身を変えることをどこかで恐れていたのだと思う。酒が抜けてシラフになると、自分自身の抱える問題を直視しなければならなくなる。それよりは酒に溺れて毎日「俺は酒で死ぬんだ」と管を巻いている方が自分の問題を見なくて済む。だが、私は自分を変えることを選んだ。そして、抽象的な言い方をするが私は「人間になること」を選んだ。この世界に再び降り立ち、満身創痍になりながら生きること。世界との関係で自分自身を変革していくこと。そうして少しは成長できたのだろうか、と思う。

前々から進めていた職場でのジョブコーチ利用のことについて、少し話に進展があった。ここでつまびらかにするには早すぎると判断したため書くのは控えるが、こうしてジョブコーチの利用を進めていく過程はそのまま現実世界に自分自身がコミットしていく過程でもあった。ああ、ジョブコーチの話を進める前に職場で自分が自閉症者であることを理解されなくて、生ける屍のように無気力な状態で働いていたことを思い出す。酒に溺れ、いつ死んでもいいと嘯いて……しかし時代は変わる。世界は変わる。そして私自身の認識も変わる。変わることを恐れてはならない。