跳舞猫日録

Life goes on brah!

2021/12/29

BGM: Rodriguez "Crucify Your Mind"

古井由吉『仮往生伝試文』の読書が進む。年末年始の気忙しい時期にこんな本を読んでいるのは日本でも私ひとりだけではないだろうか。『仮往生伝試文』に飽きると『白髪の唄』を読む。様々な人々の死に触れた本であり、そこから生きることを照らし出した本でもある。常識的に考えると、生きれば生きるほど人は死に近づく。ということは生きれば生きるほど人は死について深く考えなければならなくなる。なら、それを見ないようにするのではなく見つめ続けることも人生の過ごし方としては一興かもしれない。これらを読み終えたら『白暗淵』を読み返すのもいいだろう。むろん『ゲーデルエッシャー、バッハ』の続きも読みたいが。

当たり前の話をするが、私は天才でもなんでもない。ただの凡夫だ。角度を変えて言えば、私のような人間を飲み込めるほど世の中は広いとも言える。私は、周囲から奇人扱いされた時期が長いのでかつて「私は選ばれた人間ではないだろうか」と思っていたのかもしれない。ヴェルレーヌだったか、「選ばれてあることの恍惚と不安二つ我にあり」と言ったのは(この言葉を知ったのは太宰治の小説からなのだが)。だが、蓋を開けてみると私は特に取り柄もない人だった。そして、それでいいのだろうと思う。むしろ普通であること、この世に収まることに幸せを感じる。

等身大の自分を見つめること、ありのままの自分で生きること……かつてそれを拒んでいたことがあった。自分は特別でありたい、目立ちたい、と思って……バカなことをネットでやらかしたこともある。だが、今そんな等身大の自分を受け容れて下さる方が居て、私はやっと自分自身そのものに自信を持てるようになったし愛することもできるようになった。早稲田を出たことも私にとっては重荷だったのだけれど、今は大事な通過点のひとつだったと思っている。だが、早稲田に居た頃に戻りたいとは思わない。今、愉快な仲間が居てそれが自分にとって僥倖だと思う。

ああ、自分には才能があるのになぜ世の中は認めてくれない、金や栄誉を世間は与えてくれない、と本気で思い込んでいた日々を思い出す。バカだった……どんな境遇であろうと腐らずに淡々と自分のやるべきことをやっていれば、いずれそれは(金や栄誉という形でではないかもしれないが)帰ってくる。努力した人間だけが掴めるなにかがある。そんなことを、今日ふとシクスト・ロドリゲスの「Sugar Man」という唄を口ずさみながら思った。このシンガー・ソングライターにまつわる素晴らしいドキュメンタリー『シュガーマン 奇跡に愛された男』を、もう一度観るべきかもしれない。