跳舞猫日録

Life goes on brah!

2023/07/01 BGM: The Doobie Brothers - Listen To The Music

ここ最近、ぼくはイールズのアルバム『エレクトロ・ショック・ブルース』を聴き返している。イールズというグループは、マーク・オリヴァー・エヴェレット(通称E)という1人の男のソロ・プロジェクトだ。この『エレクトロ・ショック・ブルース』を、ぼくはこれまでの人生で窮地に陥った時何度も聴き返してきた。「もうダメだ」「もう万策尽きた」と思った時……ぼくは音楽ジャーナリストではないので彼の音楽を批評的/ジャーナリスティックに語る術を持っていない。でも、彼のこの音楽は実に「沁みる」。このアルバムは冒頭で、エリザベスという女性が浴室の床の上で倒れている光景を描写するところから始められる。「My life is shit and piss(わたしの人生はウンコだ)」……彼女はそう述懐する。だが、それだけならひと山いくらで売られている、ありったけの毒に満ちた(だけの)ほどほどにコマーシャルでネガティブな、つまりは陳腐な音楽ということになろう。このアルバムはそんなやわなものじゃない。この日記を読んでいる「きみ」、もしかしたら今人生に悩んでいるかもしれない「きみ」に聴いてほしい、そうぼくは願う。

「きみ」はこのアルバムに重苦しさを見出すかもしれない。ひずんだベースライン、音遊びに満ちたサウンド、そしてEのしわがれた声。だけど、それは決して耳障りなものではないはずだ。「きみ」のツボをくすぐるようにうまくできている音の構成を通して、「きみ」はアルバムを聴き込むにつれて悪夢から抜け出すように、あるいはバッドトリップをくぐり抜けるように、もしくは夜が次第に明けていくのを感じるように光が指す境地へと至るのを感じるだろう。そう、このアルバムはそうした希望や新生へとこちらを導いてくれる。だが、それは何も「夢は叶う」「ポジティブに行こう」というような単純で乱暴なメッセージを意味するものではない。まず、救いのないように見える濃い闇が提示されて、その深い海底からこちらを徐々に水面まで引き上げてくれる。そんな闇から光、地獄から現世へのトリップを提供してくれる。だからぼくはこのアルバムを愛するのだ。そして、どうしてこんなことがこのEという男、いやこの「ソウルマスター」には可能なのだろうと舌を巻いてしまうのだ。この男は掛け値なしの天才、と言っても言い過ぎではない。このアルバムは少なくともぼくにとって、90年代が生み出したマスターピースの1枚には必ず入る。

そして、ぼくはこのアルバムにEという男の持つ「懐の深さ」を感じる。ぼくのようなメソメソした弱っちい、情けない男を抱きしめてくれるような……同時にユーモアのセンスをも感じる。シリアスさとユーモアが微妙な、説教臭くもなく偽善的でもない(つまりは「嘘くさく」ない)バランスでブレンドされていると感じられるのだ。ぼくはこないだも「あなたのユーモアのセンスはすばらしい」と言われたことがある。多分にそれは、こんなEという男の生み出すユーモラスな音楽に影響されてのことではないかと思う。Eはこの『エレクトロ・ショック・ブルース』以外にも多くのアルバムを作っている。どれも甲乙つけがたい1作で、人生の「やりきれなさ」「ままならなさ」に痛めつけられたEがそれでも「ま、しゃーない」「それでも生きるんだ」と前を向いて、その澄んだ瞳で世界を見つめて、ぬくもりのある声で歌おうとする力強い生き様が伝わってくる。それが励ましとなってぼくに届く。90年代はニルヴァーナやベック、ブラーやオアシスやスウェードたちのような優れたミュージシャンが台頭してきたディケイドだった。でも、イールズはぼくにとって彼らと同格の存在としてあり続ける。

やれやれ。昨日は自殺について掘り下げて考え込んでしまい、今日はイールズの音楽からまたしてもネガなことをあれこれ書いてしまった。ぼくも時にナイン・インチ・ネイルズマリリン・マンソンのような音楽を聴き「自虐」「自傷」に陥ることもある。でも、心のどこかでぼくは「ウェットな笑い」というか「ユーモア」を信じたいと思っているようだ(いや、ナイン・インチ・ネイルズにだってユーモアを感じることはあるけれど)。ぼくが村上春樹に惹かれるのだってユーモアを信頼しているからだろうし、この日記を書く時にしても心のどこかでは「暗いことばかり書いていてメソメソしていても始まらない」と思っている。ぼくがDiscordでやっているサーバにしてもユーモアを盛り込みたいと思っている。つまり、ぼくはどこかで「太鼓持ち」「道化師」的なメンタリティを持っているのかもしれない。マゾヒストなのかなとも思う……なんだか今日は(今日「も」?)自分のことを語りすぎてしまったみたいだ。

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