跳舞猫日録

Life goes on brah!

2023/03/22 BGM: Massive Attack - Daydreaming

今日は休みだった。朝、イオンに行きそこでサイレント・ポエツ『Potential Meeting』を聞きつつ池澤夏樹マシアス・ギリの失脚』を第3章まで読む。池澤夏樹のクレバーさに改めて舌を巻く。彼はこの本の中でさまざまな要素をうまくミックスしている。日本と架空の国ナビダードをめぐる政治について、日本文化について、ロマンスについて……前にも書いたかもしれないが、この本はラテンアメリカ文学の壮大さと日本文学の「もののあわれ」が出会ったところに位置する作品であると思う。過去にこの本についてラテンアメリカ文学のパロディと片付けられていたのを読んだことがあるが、そんな単純に語れるヤワな作品ではない。バイアスを自分の中で築き上げる前にきちんと読むことが(当然のことではあるのだけれど)大事だと思った。実にこの本に酔わされたと思った。芳醇というか、馥郁とした作品だと思う。

昼にグループホームの方と話をする。その後、『ドナルド・キーンの東京下町日記』を読む。ドナルド・キーンという人をただの「懐古趣味」と思っていたのだけれど(保守反動、というやつかなと)、この本はそうした私の偏見を覆すものとして現れた。往年の文豪たち(三島由紀夫安部公房等など)との交流もふんだんに書かれているが、それに劣らず太平洋戦争中の思い出などを開陳しており読ませる。意外と「リベラル」で「グローバル」な知識人ではないかと(失礼!)思わせられた。端正な日本語はそのまま私自身が文章を書く上でのお手本にしたいくらい。大岡昇平『成城だより』でキーンの名前が出てきていたので彼の本を何冊か借りたのだけれど、いつも目移りする性分の私なのでさっそくそれらを「読みたい」と思わされ困っている。

WBCにおいて日本がアメリカ戦を制する。この結果はまったく読めていなかった。このニュースは確かにインパクトがあり、午後はほぼ丸ごと何事にも手を付けられずニュースやTwitterに魅入ってしまった。Discordでもこのことは騒ぎになる……かと思いきや、サーバによって反応はさまざまでWBCについてまったく我関せずなサーバもあった。実は夜、断酒会に行った時もこのWBCについて少し会話が盛り上がり、「『ネバーギブアップ』って大事ですよね」「でもこれでまた『祝杯』を上げるムードになるとイヤですね」という話になる。こんな風にコミュニティによってWBCへの反応もきれいに違ってくる。いったい世界はどうなっているのか。ひとつ言えるのは恐らく英語を学んでいるからこそ、こうした「多彩な世界」に触れられるということかなと思った。

その後グループホームに戻り、温又柔『私のものではない国で』を少し読む。この書き手の本は木村友祐との往復書簡を読んだことがあった。実に(こういうところで私の「マッチョ」なところが出るのかもしれないが)チャーミングに感じるエッセイが収められて、彼女が日本語と台湾語の「あいだ」をまざまざと生きたことに、性の「はざま」で葛藤するトランスジェンダーにあやかって「トランスリンガル」という言葉をなぞらえたくなる。彼女のブログを知り、最新の記事を読む。短いが実に刺激的な文章だ。彼女は「利用」されたくないのだな、と思った。良識的なプレスやファンから「利用」されることなく自分の書きたいことを書く。もちろんこの姿勢をナイーヴと断罪するのはたやすいが、私は彼女が思わず見せてしまうこの「弱さ」を支持したいと思った。実を言うと私自身も彼女のものを読むのはどこか多和田葉子的な問題意識から、つまり「バイリンガルを生きる書き手」の繊細な「言語感覚」を知りたいという姿勢から読んでいるからだ。そのことを反省する。

wenyuju.hatenadiary.com