跳舞猫日録

Life goes on brah!

第一信

2022/01/10

親愛なるマーコ・スタンリー・フォッグ様

こんにちは。そちらの様子はどうですか。ニューヨークのコロナ禍はその後落ち着いたでしょうか。日本では第6波が懸念されています。ぼくが参加するミーティングも軒並みZOOMを使ったオンラインで行うことになりそうです。マーコ、ぼくは今年で46歳になります。あなたが主人公として登場する冒険を描いたポール・オースターの小説『ムーン・パレス』を読んだのが20歳頃のことです。あれから26年……随分経ったものです。当時、こんな世の中が来るとは全く思っていませんでした。あの頃からインターネットの可能性は語られていたとは言え……。

マーコ、あなたは今年何歳になったのですか。ぼくはあなたの年齢や、あなたが今なにをやっているかを『ムーン・パレス』という小説から類推するしかありません。情けない話ですが、ぼくは記憶力がそんなにいい人間ではないので『ムーン・パレス』についてもどんな話だったかあやふやにしか思い出せません。とても悲しい、でもとても美しい話だったことは覚えています。どうやらあなたと再び会うために、ぼくは『ムーン・パレス』を読み返すしかなさそうです。読み返せば、小説の中のあなたに会える。そして、当時むさぼり読んでいたぼく自身を再び見つけることができるかもしれません。

『ムーン・パレス』という小説の中でも、あなたは20歳頃だったはずです。20歳頃……ぼくにもそんな時期がありました。今日は日本では「成人の日」でした。人は若さを称揚します。20歳を美しい時代だと語ります(20歳が最も美しいと語ったのはポール・ニザンでしたっけ。読んだことはないのですが)。でも、ぼくにとって20歳はとってもつらい時代でした。あまりにもたくさんある可能性の前でどれを選んでいいかわからず、自分になにができるかも見極められず、したがって焦燥ばかりが感じられた時代だったのです。

20歳の頃、ぼくは早稲田大学という学校に通っていました。日本では早稲田を知らない人はそう居ないのではないかと思います。あなたが通っていたコロンビア大学と同じく名門校です。でも、そんな大きな大学に通っていたにも関わらず、当時からぼくはつらい思いをしていました。マーコ、青春とはそんなものなのでしょうか。ぼくは胸を張って言えます。ぼくは今の人生の方がずっと楽しい。「どんなものにもなれる」という若さはなくなったけれど、その分今の人生を腹を括って生きられるようになったからです。

これから、ぼくのことを少しずつ手紙に書いていこうと思います。それでは失礼します。