今日は遅番だった。今朝、さまざまなジャンルを股にかけて活躍する批評家・佐々木敦が記した『「教授」と呼ばれた男』を少しばかり読む。これは坂本龍一についてまるごと扱った、評伝と批評が渾然一体となったリキの入った1冊だ。今朝は実を言うと、いつものことながらなにもやる気が起こらずだらだらと過ごしてしまったのだけれど、何気なくこの本を開くと実に明晰でセンシティブな論理展開と文体に惹きつけられて読みふけってしまった。だから、本にのめり込むことができたのだった。この本はきっとこれから坂本龍一を評価・批評するにあたって「標石(マイルストーン)」となるだろうと思う。少なくともぼくにとっては実に「マスト」な1冊となり、もっと読み込む必要があるとさえ感じた。
いつもぼくはこの日記で曲のタイトルを添えて書くクセがある。だからわかってもらえるかなとも思うけれど、音楽好きということで言えばぼくは自分の愛は人後に落ちないとさえ思う。もちろん、坂本龍一についてもぼくのお気に入りのミュージシャンであり敬意を払いたいとも思う。でもぼくが音楽をフォローするようになったのはもっともっと昔のことで、小学生の頃に文字どおり稲妻に打たれたようにあるアニメソングにショックを受け、そこから興味をくすぐられて音楽を追究するようになったのだった。それから、地元のラジオ番組の毎週のヒットチャートをノートに記録するといったことを始める。それが端緒だった(でもおわかりのように、ぼくの趣味はとても変わっていてユニークかもしれなかったりする)。
それから……実にたくさんの曲をこれまでの人生で聴いてきた。それこそ「星の数ほど」とも言えるのではないか。バブリーな、あぶくのような流行歌からドビュッシーやサティのようなクラシックに至るまで(クラシックに関してはもっと探究したいと思っているところだ。もっと面白さを知りたい)。でも、音楽を聴くことがそんなにハイブロウ(高尚)な趣味だとはまったくもって思わない。前衛的な曲はぼくはめったに聴かない。少なくとも、ぼくはぜんぜん賢くもなんともないのでただ心を広い音楽の大海にあずけてそして癒やすことに務めるのみだ。より深く、深く。
こうした観点から、ぼくは実を言うと坂本龍一のことももっと「アバンギャルド」な音楽だと思っていたことは告白しておきたい。あるいは、エリートの集団(悪く言えばスノッブな80年代残党)のための音楽だとも思っていたことも告白するべきかもしれない。たぶんそんなことを考えたのは彼がすでにスーパーヒーローだったからだろう。日本のカルチャーの重力圏において彼はすでに海を超えて、世界を股にかけて活躍できる逸材・天才以外の何者でもなかった。この佐々木の労作はそんな坂本を人間として見なし、そこからトラブルに見舞われたりしくじりを犯したりもした坂本の姿を率直に捉え、そしてもちろん彼がどんな偉業を成し遂げたのかフェアな筆致で語る。坂本の歌曲をこうした本を虚心に読み込むことで評価し、自分なりに楽しめるようになりたいとも思った。