跳舞猫日録

Life goes on brah!

2023/06/21 BGM: Venus Peter - New World

今日は遅番だった。朝、邵丹『翻訳を産む文学、文学を産む翻訳』を半ばまで読み進める。改めてすばらしい仕事だと思わされた。この本を通してぼくは、村上春樹のみならず藤本和子の仕事にも興味を惹かれた。藤本和子に関してはせいぜい彼女が翻訳を手がけたリチャード・ブローティガンの小説くらいしか読んだことがなく、したがって彼女自身のエッセイ・批評はぜんぜん知らない。彼女はアメリカにおける黒人差別やフェミニズムの問題に鋭く切り込み、そしてそれを批評『塩を食う女たち』などに結実させてきたと知る。さっそく図書館のサイトで調べて予約する。もちろん読めるならこの機会にブローティガンの珠玉の逸品も彼女の翻訳を通して読み返してみたい。こうして、ある本やある作家から芋づる式にさまざまな本・作家に動けるのが読書の醍醐味だ。思えば十代の頃、村上春樹を読み込んでいた時もそこからビートルズやジャズに手を伸ばしてみたり、あるいはゴダールなどの古い映画を掘り下げたりしたりしたっけ。春樹の文学はノンポリと批判もあるが、でも野心的な批評家の読みによってこうしてポリティカルな側面をあぶり出されたりすることもある。

昼、こんなニュースを聞く。世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数2023」において、日本がまだまだ男女平等が進んでいないという結果が出たというのだ。ぼくはこのニュースは概要しか知らないのでもっと読み込まないといけない。だけど、この問題になると(あまり評判のよくない意見になるのだけれど)他でもないぼく自身が「男らしくあれ」「男のくせに」という意見でさんざん抑圧され、いじめられたことが蘇る。「男性上位」の社会はそうしてある意味で男性をも抑圧している、とぼくは信じる。もちろんそれは、この国の女性たちが被ってきた生きづらさと比べれば他愛もないものではあるだろう。昔韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を観て、女性が女性であるというだけの理由でこの社会でいかに生きづらい思いを強いられているか学ばされた記憶がある。日本においてもあの映画と同じ不条理があり理不尽があるはずだ。なら、そうして1人1人の中にある生きづらさを公的な声につなげられないだろうか。個人の声を公に。それがフェミニズムが言っていた「個人的なことは政治的なこと」という言葉が表そうとしてきたことだと信じる。

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過去にそうして「男らしくあれ」と言われて、あるいは「普通であれ」「どこまでひねくれてるんだ」と言われ生きづらい思いをしてきたことを思い出すと今は時代も進歩したなと思わされる。今は多様性の時代だ。もはやセクシャリティも「男と女」と単純明快に二分されうるものではなく、個々人の実感に応じてきめ細かくわけなければならない時代に来ているのではないか。いや、ぼくはそうした問題に関してはぜんぜん無知なのだが、発達障害のことで言えば発達障害とはグラデーションの中で位置づけられうる障害という考え方が主流になりつつある。これは発達障害者と定型発達者はまったく別の存在というわけではなく、彼らは根っこの部分では一緒だということを意味する……そしてふと思う。そんなふうに社会やエスタブリッシュメントが決めるアイデンティティではなく個々人が自分の実感に応じてアイデンティティを見つける時代とは、新たな生きづらさが生まれる契機である反面(それはアイデンティティ・クライシスが生まれうる可能性も孕んでいるだろう)、自分自身のコアにある声にしたがって個々人が堂々と生きられうる時代でもある、と。だがこれに関してはもっと考えないといけない。

そうして個々人がカスタムメイドで個々のアイデンティティを探究する時代、個々のアイデンティティを個々が生きる時代とは解放/開放なのか、それとも新たな地獄の釜の蓋が開いたことを意味するのだろうか。それはアイデンティティを支えていた「物語/ナラティブ」(「男は男らしく」というような)との関わりの問題でもあるかもしれない……そんなことをあれこれ考えつつぼくがいつものように休み時間に英語でメモを書いていたら、とある方が話しかけてこられた。「お姿をお見かけして、いつも励まされています」というのが彼の骨子だった。「励まされています」という言葉が嬉しかった。思えばDiscordで、この日記をきっかけにスティーブ・シルバーマン『自閉症の世界』の原著『Neurotribes』のペーパーバックを買われたという人の投稿を読んだことがあった。この日記、そしてぼくの存在自身が誰かに影響を与えている……それはでも言うまでもなくぼくのところにコメントを寄せてくれる皆さん、そしてこの日記を親身に読んで下さっている皆さんのおかげだ。ありがとうございます!