その後、お昼前の時刻にグループホームの本家に行く。今日は副管理者の方が出勤しておられたので、その方に昨日おろしたぼくの給金を渡してからそのお金を振り分ける作業を行う。グループホームの利用料、日々の生活費、医療費に断酒会の会費、ガソリン代に自助グループ参加費……とこまかく分けていき、それが無事終わってからはしばしいろいろなことを話し合う。ぼくが前に描いて、その後あるところで展示してもらっていた絵のことについてその絵をどうしまい込むか話し合って、それからぼくがあたためている小説のアイデアについてもその方に少しばかり話させてもらった。時期早々かなとも思ったけれど(なにせまだ1行、いや1文字も書いていないので)話すとなにか見えてくるものがあるかなとも思ったのだった。
その後、昼食を食べてから昼寝をして(今日はことに長い昼寝だった)、そして午後になって他にやることもなかったので引き続きあれこれ小説のネタをしぼり出す。ダスト・ブラザーズによる、ぼくが好きな映画『ファイト・クラブ』の目覚ましくすばらしいサウンドトラックを聴いたりしつつノートとメモパッドを広げ、いつものようにフリクションペンを走らせて英語でデタラメに思いついたことをあれこれ書きつけていると、ふと「『ぼく』『私』ではなく、『きみ』を一人称にするというのはどうだろうか」と思いつく(ぼくの知る限りではジェイ・マキナニー『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』がそうした語り口を持っている。あるいは積読のミシェル・ビュトール『心変わり』も)。たとえばこんなふうに……。
「そしていま、きみはイオンのフードコートの一席に座ってそこでリービ英雄の赤い文庫本『日本語の勝利/アイデンティティーズ』を眺めている。時刻は4時。きみは誰を待つでもなく、その本を読むでもなくただ時間が怒涛のごとく流れ去るのを感じている。すると目の前を3人の10代の制服姿の女の子たちが通り過ぎる(うち1人は右手を伸ばし、お尻を掻いている)。耳に差し込んだイヤホンからはタイラー・ダーデンのスピーチが流れてくる……」。いや、これは小説というより思いついた光景を実にテキトーに文で「デッサン」した以上のものではありえない。それに考えてみればタイトルだってまだつけられていない。だがなんにせよこの出来は満足の行くものだったので、ひとくさりアイデアを書いたあとはそのリービ英雄の文庫本を読んで過ごす。
夜になり、外に出て今年最初の断酒会に参加する。そこで他のベテランの参加者の方々の前で自分の体験談(もっぱら職場で起きたことなど)を語る。その後自室に戻り、消灯までさっきのリービ英雄の本を読んで過ごす。なんだか小説のアイデアのことが気になる。いや、失敗作(駄作・愚作)として終わる可能性はかなり高いにせよ、ともあれ書きつけたアイデアにはそれなりに満足しているのでここからプロットを組み立てるか、あるいはこのまま思いつくままに筆記し尽くすかあれこれ考える。書いていくと見えてくるもの(隠れていた「氷山の一角」的なもの)があるだろうか。ここから、「ボーイ・ミーツ・ガール」的な話になるんだろうか。なんだか実験映画を気取って失敗したような内容で終わる気もする。でも、それでも書きたいと思うのだった。