十河進『映画がなければ生きていけない 2003-2006』を相変わらず読んでいたら、オールタイム・ベストをめぐる話題が出ていた。オールタイム・ベストか……私が映画や音楽、文学についてオールタイム・ベストを選ぶとしたらどうなるだろうと思った。Filmarksというサイトでは点数を用いて評価をつけていて、これで映画の優劣を判断していることになるのだが私は基本的には点数制を信用していない。どの映画にもどの映画のよさがありそれは点数で計れるものではないと思っているのだった。宮崎駿とキューブリック、どっちが上かなんてたやすく語れない。
オールタイム・ベストについてはおいおい考えることにするが、私が映画の魅力を教わったと思う映画は曽利文彦『ピンポン』でありこれは揺るがない。この事実ひとつとってもわかるように、私は映画に関しては徹底的に邪道を通ってきた。映画を観始めたのは40代を過ぎてからなので幼い頃のシネマ体験なんてものもなく(そもそも、私はじっとしていられないという発達障害故の特性のせいで映画館で映画を観られない)、観始めてからも手当り次第かつテキトーに観ていたらこうなったという次第で威張れたものではないのだった。
だが、それでもいいのかな、とも思う。立派な批評家のオールタイム・ベストは映画史を考える上で参考になる、が故に価値がある。私のオールタイム・ベストにそんな価値はない。ただ私というアホな人間がどう形成されたかがわかるのであって、私を知りたい人にとってこそ価値があるのかなとも思う。まあ、こういうのは「お遊び」な要素が強いと思うのでそう大上段に構えることなく気楽に行こう。でも、私のオールタイム・ベストに残念ながらゴダールやトリュフォー、黒澤や小津や成瀬は入らないかもしれない。彼らの作品は偉大だが、私の人生まで左右することはなかった(かもしれない)。
この考え方を敷衍していくと、私は結局どの分野でも批評家にはなれないという事実が明らかになる。どの分野を語るにしても、私は特殊すぎると思う。映画評論めいた文章を書いても、この日記を書いても私は結局私でしかなく、万人が参考にできるフェアな情報も、誰もが納得できるクレバーな論考なども書けない。まあ、しょうがない。私は私の人生を歩むまでだ。音楽にしても私の人生をビートルズやストーンズの音楽が彩ったという事実もなさそうなので、つくづくヘンな人生を歩んできたのだなと思ってしまう。
踊る猫のオールタイム・ベスト10(順不同。今の気分で)
濱口竜介『ハッピーアワー』
是枝裕和『万引き家族』
曽利文彦『ピンポン』
北野武『ソナチネ』
黒沢清『CURE』
ウェイン・ワン『スモーク』
リチャード・ケリー『ドニー・ダーコ』
ジャン=リュック・ゴダール『ウィークエンド』
デヴィッド・リンチ『インランド・エンパイア』
エルンスト・ルビッチ『生きるべきか死ぬべきか』